2017年03月30日

嗅覚と認知症 ブログで授業(一般からプロまで。学校のテストには出ない)

アルツハイマー型認知症(やレビー小体型認知症)の発症に先行して、嗅覚低下が生じているといいます(Djordjevic et al., 2008; Peters et al,2003; Williams et al., 2009)。嗅覚による認知症のスクリーニングも試みられています(Stamps et al., 2013; 小林ら, 2015)。ご老人に対応するとき、嗅覚の低下が生じていないかを生活の中から観察しておくことは、認知症に早く気づくことにつながるかもしれません。

また、マウスやラットの嗅球を摘出するとコリン作動性神経の異常が生じ、認知機能が低下するといい(Yamamoto et al., 1997; Hozumi et al., 2003)、脳の変性の結果としての嗅覚低下だけでなく、嗅覚低下が認知機能を悪化させる可能性もあり興味深いものです。嗅覚刺激が認知機能を高める可能性が指摘されており(Moss et al., 2003)、嗅覚をトレーニングしなおすことによって認知症を予防できる可能性にも注目されています(木村ら, 2005)。いわゆるアロマセラピーを試みることになりますが、認知症予防を目的とした商品も登場しているようです。その有効性は十分に分かりませんが、少なくとも副作用や侵襲性が少ない点で、試してもいいのかもしれません。


アロマの認知症予防効果について語られた本もあるようです(私自身は未読)。


認知症で嗅覚低下が生じうることは、精神科専門医試験(第8回)に出題されています。

2分半の動画で解説しました。
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2017年03月26日

統合失調症と多飲水 ブログで授業(プロ向き)

統合失調症の患者さんが過度に飲水して水中毒、すなわち低ナトリウム血症に陥ることがあります。精神科病院に入院している患者の約10%に病的な多飲水が存在し、その結果として約3%に水中毒が生じるといいます(佐藤ら, 2009)。このことは「入院中の中3の体重(中毒3%、多飲10%)」とでも覚えておきましょう。第8回精神科専門医試験でも出題されています。
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多飲水の原因は明確ではなく、複数の要素が考えられます。中には妄想や幻聴に基づく多飲水もありますが、そのようなケースは10%ほどに過ぎず(Millson et al., 1992)決して多くありません。向精神薬の抗コリン作用が多飲水を招いている可能性には注意が必要です。慢性的なドパミンD2遮断が、アンジオテンシンIIによる口渇を増強させる可能性も指摘されています(Verghese et al., 1993)。

また、水中毒に至る多飲水の患者には喫煙者(de Leon et al., 2002)、アルコール使用障害の既往(Poirier et al., 2010)が多いといいます。水中毒の結果として生じる酩酊感を求めて多飲水に及ぶことも少なくなく、多飲水に及ぶ患者の85%が飲むと気分がいいからだと答えたといい(Millson et al., 1992)、「水使用障害/水依存」と考えてもいいかもしれません。そうであるならば、DSM-5では他の物質の使用障害Other Substance Use Disorderのひとつとして「水使用障害」と診断することになります(DSM-5, p.572)。

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慢性的な水中毒よりも急速に生じた水中毒の方が、症状が重症になる傾向があるといいます。水中毒による低ナトリウム血症は脳浮腫をもたらし、酩酊状態が生じ、その後30-60分ほどでけいれん発作が生じることが多いといいます(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.50-1)。水中毒の後に悪性症候群や横紋筋融解、播種性血管内凝固症候群:DICが生じることもあります。多飲水患者の死亡リスクは2.84倍で、死亡時の年齢の中央値は非多飲水患者が68歳だったのに対して多飲水患者は59歳だったといい(Hawken et al., 2009)、多飲水は寿命を10年近く縮めると理解しておくとよさそうです。

一日のうちに体重がベースから10%増えている時点ですぐに対処すべきであり、体内に貯留した水分が上限に達する16-21時はけいれん発作が生じることが多く注意が必要です(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.36-7)。尿比重、血清ナトリウム濃度、日内体重変動の3つが多飲水の指標として有用であり(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.18-20)、多飲水の可能性がある患者に対しては、これらを組み合わせて観察するといいようです。

血清ナトリウム濃度が120mEq/l以下で命に危険が生じうる諸症状が出現するとされ、そのようなときには120-125mEq/lほどを目標とした電解質補正が必要といいます(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.22)。電解質補正の際、その補正速度が速すぎれば、橋中心髄鞘崩壊が生じうるので注意が必要です。橋中心髄鞘崩壊では、意識障害、四肢麻痺、構音障害、嚥下障害が生じ、予後不良とされます。そして、水分摂取を制限し、体重のモニタリングをすることになります。

統合失調症を多数かかえる精神病院では、少なからず生じうる多飲水や水中毒。きちんとその可能性について意識し、適切に対処したいものです。
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精神医学を学ぶ人への推薦図書

精神医学を学ぶ上で有用な本を紹介いたします。ここでは主に精神科医を主な対象と設定し、(精神科に興味のある)学生、若手の精神科医、ある程度の経験年数のある精神科医の3段階に分けて★をつけましたので、参考にしていただければ幸いです。

なお、この記事は良書の紹介を目的としており、このページにおいてアフィリエイトの類は一切していないことを明記しておきます。


■気分障害(うつ病+双極性障害)
気分障害ハンドブック -
気分障害ハンドブック -
『気分障害ハンドブック』メディカルサイエンスインターナショナル
★☆☆ 初期研修医・医学生
★★★!若手精神科医
★★★!ベテラン精神科医
精神科の外来を訪れる最多は気分障害。そんなうつ病や双極性障害の診断や治療について解説された本です。抑うつ状態を診てなんとなく抗うつ薬を処方してみるだけの診療ではなく、きちんと診断し、きちんと治療を段階的に試みる考え方がわかりやすく解説されています。読みやすい魅力的な文章で書かれており、丸ごと一冊通読できる一冊といえます。精神科専門医の試験対策にもなります。
若手の精神科医にも、ある程度の経験をすでに有している精神科医にもおすすめできます。精神科をしっかり学ぼうと思う研修医も、精神科研修中に読んでしまうといいかもしれません……何科に進んでも、必ずうつ病患者には常に出会うのですから。

気分障害 -
気分障害 -
『気分障害』医学書院
☆☆☆ 初期研修医・医学生
★☆☆若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
気分障害について、非常に詳しく書かれた分厚い本。通読することは困難で、ある程度、気分障害について理解している人が、さらに詳しく学ぶための本です。精神科医の本棚に一冊あってほしい本です。

■不安障害
不安障害診療のすべて (精神科臨床エキスパート) -
不安障害診療のすべて (精神科臨床エキスパート) -
『不安障害診療のすべて』医学書院
☆☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
パニック障害や全般性不安障害、分離不安などの様々な不安障害について解説されています。分厚いように見えて十分、通読してしまえる文章量ですし、気になった項目だけ読んでも参考になります。精神医療に携わっていれば不安障害に対応する局面は多く、そんなときにはこの一冊を読んでおくと自信をもって適切な医療を提供できるはず。医学生や研修医に買えとは言いませんが、精神科医であれば持っておきたい一冊です。


■統合失調症
統合失調症に関連する本はゆうに十冊以上持っており、その倍以上の本に目を通してきましたが、ぜひおススメしたい決め手となる一冊を欠くのが現状です……そのため2016年12月現在、私自身が執筆中です。様々な本を手にとり、知識を集めるほかにないでしょう。


過感受性精神病 治療抵抗性統合失調症の治療・予防法の追求 -
過感受性精神病 治療抵抗性統合失調症の治療・予防法の追求 -
『過感受性精神病』星和書店
☆☆☆初期研修医・医学生
★☆☆若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
日本の統合失調症治療は、多剤大量で治療されてきた(つい最近までの)過去があり、それがなぜ問題かを理解するのに有用な本です。小難しい本ですが大した量ではありません。統合失調症をよく診ることのある精神科医はぜひ理解しておくべき概念です(そして、統合失調症が沢山いる病棟の看護師も目を通しておくといいかもしれません……それには基本的な知識がある必要がありますが)。

統合失調症 -
統合失調症 -
『統合失調症』医学書院
☆☆☆ 初期研修医・医学生
★☆☆若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
統合失調症について、非常に詳しく書かれた分厚い本。通読は非常に困難。何度も手に取って詳しく学ぶための本です。精神科医の本棚に一冊あるといいでしょう。


■精神科診断/診断基準
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 -
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 -
『DSM-5』医学書院
☆☆☆(必読)初期研修医・医学生
★★★(必携)若手精神科医
★★★(必携)ベテラン精神科医
精神医療に関わる上で絶対に避けて通れないのが精神科の診断基準であるDSM-5をここで挙げるのは当たり前すぎるかもしれません。それは診断の過程をアルゴリズムにしたものであると同時に、その精神障害の特徴を理解する上でも役立つものです。精神科に関わるのであれば必ず持っておくべき本。小さな「デスクトップリファレンス」と、解説がふんだんに盛り込まれ非常に分厚く大きな本があり、専門家であれば大きな方も持っておきたいものですが、まずは小さな方を入手することからでしょう。


語呂で覚える!DSM‐5 -
語呂で覚える!DSM‐5 -
『語呂で覚える!DSM-5』メディカルサイエンスインターナショナル
★★☆!初期研修医・医学生:
★★★!若手精神科医
★★★!ベテラン精神科医
診断基準のDSM-5だけでなく、精神科に関する物事がざっくり解説され、覚えるための語呂をたくさん紹介した本です。診断基準を本棚やポケットに入れておいては、臨床の場面では効率が悪く、基準が頭に入っていなければきちんと診察の際に情報を集めることも困難になるものです。また、語呂で覚えてしまえば、その障害について容易に理解が進むはず。
精神科医であればぜひ覚えてしまうべきであり、ベテラン精神科医もこれまでうろ覚えだった領域に挑戦してほしいものです。研修医や看護師、医療系の学生であれば、DSM-5そのものをめくるのも面倒なものであり、ざっくりと解説されたこの本がDSM-5そのものよりも大いに役立つはずでしょう(比較すれば価格も安上がりだし)。


精神科診断戦略: モリソン先生のDSM-5徹底攻略case130 -
精神科診断戦略: モリソン先生のDSM-5徹底攻略case130 -
『精神科診断戦略: モリソン先生のDSM-5徹底攻略』医学書院
★☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
様々な精神障害について丁寧に解説されている。多くの症例が提示されており、読み物としても面白く、すべてを通読するのは大変でも、開いたページからついつい読み進んでしまえる魅力的な一冊。DSM-5には無味乾燥な基準しかありませんが、この本を手にすれば各精神障害が生き生きとイメージできるようになり、それぞれについてより詳しくなれることでしょう。原著は業界で非常に人気のある名著"DSM-5 Made Easy"。特に精神科医に(精神科に興味のある医学生や研修医にも)オススメの一冊。


■薬物療法
本当にわかる精神科の薬はじめの一歩〜疾患ごとの具体的な処方例で、薬物療法の考え方とコツ、治療経過に応じた対応が身につく! -
本当にわかる精神科の薬はじめの一歩〜疾患ごとの具体的な処方例で、薬物療法の考え方とコツ、治療経過に応じた対応が身につく! -
★☆☆初期研修医・医学生
★★☆若手精神科医
☆☆☆ベテラン精神科医
『本当にわかる精神科の薬はじめの一歩』羊土社
初期〜後期の研修医や学生が読むのには非常に良い一冊。非常に読みやすく、最初に理解すべきことに的を絞って書かれています。精神科に進む予定がない研修医も、精神科の研修中に読み通しておくと、将来きっと役に立つでしょう。


ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版 -
ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版 -
『ストール精神薬理学エセンシャルズ』メディカルサイエンスインターナショナル
☆☆☆初期研修医・医学生
★★☆若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
向精神薬の薬理について詳細に書かれた分厚い本。薬理は非常に難しい領域ですが、それでもストール先生の手にかかればこれだけわかりやすくなるものです……それにしても難しいかも。初期研修医や医学生が手にするには無理があります。精神科の道に進むと決めた後期研修医は早いうちに持っておくべきですし、精神科医の道をずいぶんと進んできた医師も、さらに学びを深めるために持っておきたい本です。


■症候学
精神症候学 -
精神症候学 -
『精神症候学』弘文堂
☆☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
精神科の道に進むと、症状ひとつ扱ういも難しい用語のオンパレードです。そんなとき、この一冊が本棚にあると、その用語が何を意味するのかや、あなたが見た患者の症状は何という専門用語で言い表したものかを学ぶことができます。丸ごと一冊をぐいぐいと読み進めるには無理がありますが、興味があった(または必要が生じた)ところから少しずつ読んでいくうちに、症状を言い表す専門用語に詳しくなれることでしょう。初期研修医や医学生は……買わないことでしょう。しかし、医局の本棚にこの本があったら手にとるといいでしょう。そして、精神科の道に進む者は早いうちに持っておくべき本です。

■頭部画像
脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (脳・神経編)) -
脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (脳・神経編)) -
『脳単』エヌ・ティー・エス
★★☆初期研修医・医学生
★★☆若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
精神医学では必ず脳の話が出てきます。脳の各部位の名称や簡単な説明が分かりやすい図とともに示されています。学術的な本ではありませんが、学ぶ腕では非常に良い参考書といえます。
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2017年03月24日

錐体外路症状 ブログで授業(学生向き)

統合失調症を薬物で治療する際、錐体外路症状が生じることがあります。どのような症状が生じうるのかを、医師や看護師はもちろんのこと、医学生も看護学生も理解しておく必要があります。

錐体外路症状には、運動が減るパーキンソニズムと、運動が増える症状(アカシジア、ジスキネジア、ジストニア)があります



錐体外路症状で最も多いのがパーキンソン症候群です。



ジストニアとジスキネジアは、概念も用語も似ているため混同しやすいものです。きちんと見分けられるようになりましょう。筋肉が引っ張り続けてしまうのがジストニアで、筋肉が動き続けてしまうのがジスキネジアです。"tonus/tension"は緊張、"kinetic"が運動を意味することを知ると、この二つを混同せずにすむかもしれません。



足がムズムズして座っていられなくなるのが「アカシジア」です。"a-"は「無」を、"káthisis"は「座る」を意味し、座っていられなくなるのがアカシジア。



まとめて4分間で解説しました。
タグ:統合失調症
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2017年03月20日

電気けいれん療法 ブログで授業(学生から精神科医まで)

統合失調症や気分障害(うつ病や双極性障害)に用いられる電気けいれん療法(ECT)について紹介しましょう。


動画での解説はこちらから。



電気けいれん療法の副作用を理解しておきましょう。




ECTを知らない人からすれば「そんなことして大丈夫?」と戸惑うかもしれません。「一般人は当たり前のようにECTは危険で効果がないと思っているが、精神科医はそれと同じくらい当たり前にのようにECTは安全で有効だと考えている」なんて書かれているように(気分障害ハンドブック)、精神科医からすればこの治療の死亡リスクは非常に低いものであり、精神障害を放置する方がずっと危ないことといえるでしょう。
その死亡リスクは5万回に一回(Kramer, 1999)や7万回に一回(Watts et al., 2011)と報告されています。特にリスクがあれば心配すべきですが、一般的な患者については計算できないほど低いリスクといえるでしょう。




電気けいれん療法が何度も繰り返し行われることがあり、その回数が三桁を越えると「大丈夫なのかな」と不安になるものです。しかし、実際には脳にダメージは無く(Devanand et la., 1994)、認知機能も下がりません(Devanand et al., 1991)。無駄な心配より、きちんと治療を続けることの方が大切です。




電気けいれん療法の際、気分安定薬の炭酸リチウムは中止しておきましょう(el-Malakh, 1988)。




電気けいれん療法が抑うつ状態に有効なのはよく知られたこと。そして、躁状態にも用いられる治療法です(Riis & Videbech, 2015)。ですから、単に気分を「あげる」というよりは「正常化する」というのが正しいかもしれません。




電気けいれん療法は、なぜ効くのでしょうか。

posted by ぷしこノート at 13:21| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする