2017年08月25日

統合失調症と多飲水 プロ向き

統合失調症の患者さんが過度に飲水して水中毒、すなわち低ナトリウム血症に陥ることがあります。精神科病院に入院している患者の約10%に病的な多飲水が存在し、その結果として約3%に水中毒が生じるといいます(佐藤ら, 2009)。このことは「入院中の中3の体重(中毒3%、多飲10%)」とでも覚えておきましょう。第8回精神科専門医試験でも出題されています。
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多飲水の原因は明確ではなく、複数の要素が考えられます。中には妄想や幻聴に基づく多飲水もありますが、そのようなケースは10%ほどに過ぎず(Millson et al., 1992)決して多くありません。向精神薬の抗コリン作用が多飲水を招いている可能性には注意が必要です。慢性的なドパミンD2遮断が、アンジオテンシンIIによる口渇を増強させる可能性も指摘されています(Verghese et al., 1993)。

また、水中毒に至る多飲水の患者には喫煙者(de Leon et al., 2002)、アルコール使用障害の既往(Poirier et al., 2010)が多いといいます。水中毒の結果として生じる酩酊感を求めて多飲水に及ぶことも少なくなく、多飲水に及ぶ患者の85%が飲むと気分がいいからだと答えたといい(Millson et al., 1992)、「水使用障害/水依存」と考えてもいいかもしれません。そうであるならば、DSM-5では他の物質の使用障害Other Substance Use Disorderのひとつとして「水使用障害」と診断することになるでしょう(DSM-5, p.572)。

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慢性的な水中毒よりも急速に生じた水中毒の方が、症状が重症になる傾向があるといいます。水中毒による低ナトリウム血症は脳浮腫をもたらし、酩酊状態が生じ、その後30-60分ほどでけいれん発作が生じることが多いといいます(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.50-1)。水中毒の後に悪性症候群横紋筋融解、播種性血管内凝固症候群:DICが生じることもあります。多飲水患者の死亡リスクは2.84倍で、死亡時の年齢の中央値は非多飲水患者が68歳だったのに対して多飲水患者は59歳だったといい(Hawken et al., 2009)、多飲水は寿命を10年近く縮めると理解しておくとよさそうです。

一日のうちに体重がベースから10%増えた時点ですぐに対処すべきであり、体内に貯留した水分が上限に達する16-21時はけいれん発作が生じることが多く注意が必要です(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.36-7)。尿比重、血清ナトリウム濃度、日内体重変動の3つが多飲水の指標として有用であり(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.18-20)、多飲水の可能性がある患者に対しては、これらを組み合わせて観察するといいようです。

血清ナトリウム濃度が120mEq/l以下で命に危険が生じうる諸症状が出現するとされ、そのようなときには120-125mEq/lほどを目標とした電解質補正が必要といいます(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.22)。
電解質補正の際、その補正速度が速すぎれば、橋中心髄鞘崩壊が生じうるので注意が必要です。一時間に1.5mEq/lを超える速度は橋中心髄鞘崩壊のリスクを上げるとされます。一日に12mEq/l以上の速度も橋中心髄鞘崩壊を招きます(Chua et al., 2002)。橋中心髄鞘崩壊では、意識障害、四肢麻痺、構音障害、嚥下障害が生じ、予後不良とされます。そして、水分摂取を制限し、体重のモニタリングをすることになります。
また、一時間に1.0mEq/lを超える速度の補正は横紋筋融解を招くといいます(柏浦ら, 2013)。
以上からすると、一時間に0.5〜1.0mEq程度が安全と言えそうです。

統合失調症を多数かかえる精神病院では、少なからず生じうる多飲水や水中毒。きちんとその可能性について意識し、適切に対処したいものです。精神科専門医試験にも出題されています[専1, 8]。

posted by ぷしこノート at 13:27| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月18日

双極性障害の自殺リスク プロ向き

 双極性障害の人は、年に0.4%が自殺で亡くなるといい(Tondo et al., 2003)、一般人口の20-30倍の自殺リスクといい(Tondo et al., 2003; Pompili et al., 2013)、双極性障害の15-20%が最終的に自殺で亡くなるといいます(Pompili et al., 2013)。

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 自殺念慮はうつ病にも存在しますが、「自殺」「自殺企図」「希死念慮」のいずれも、うつ病よりも双極性障害の方が多くTondo et al., 2007)、自殺企図歴のある抑うつ状態の患者を診たとき、その7割は双極性障害といいます(Inoue et al., 2015)。

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 双極性障害は気分安定薬を用いた治療が重要なのは言うまでもありません。長期間のリチウムの使用は自殺リスクを5分の1に減らすといいます(Baldessarini et al., 2006)。それも、早くに気分安定薬による治療を開始した方が自殺リスクは少ないといいます(Altamura et al., 2010)。さらに、長期的なスパンだけでなく、短期間でも気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)が自殺リスクを7分の1〜10分の1ほどに減らしたといい(Tsai et al., 2016)、水道水中のリチウム濃度が高いほど自殺率が低かったといい(Ohgami et al., 2009)、気分安定薬には双極性障害の治療効果とは別に、自殺リスクそのものを下げる力があるのかもしれません。過量服薬に及べばリチウム自体が致死的になることには注意が必要ですが、自殺リスクには積極的に気分安定薬の使用を検討すべきでしょう。

 双極性障害の抑うつ状態をうつ病と同等に治療したとき、抗うつ薬が治療誘発性希死念慮Treatment Emergent Suicidal Ideationを引き起こす可能性が指摘されている(Akiskal & Benazzi, 2006)ことには注意が必要でしょう。

posted by ぷしこノート at 16:52| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

双極性障害に抗うつ薬? 患者から専門医まで

 双極性障害は、平常気分でいられる期間がおよそ半分程度で、残りの期間を双極T型であれば躁や軽躁の3.5倍の期間を抑うつで過ごし(Judd et al., 2002)、双極U型であれば軽躁の38.7倍の期間を抑うつで過ごすといい(Judd et al., 2003)、抑うつ状態が非常に多い病気です。
 双極性障害であれば気分安定薬で治療が行われるはずですが、抑うつ状態が多いことから抗うつ薬を使いたくなるもの。さて、双極性障害に抗うつ薬を使っていいのでしょうか。

 双極性障害の患者に抗うつ薬で用いたとき、状態が生じること(いわゆる躁転)が増えることを心配する医療者多いもの。ただ、気分安定薬で治療しているのであれば、抗うつ薬を追加しても躁転は増えないとする見かたもあります(Tada et al., 2015)。ただ、それも薬によって違うようで、躁転の率はプラセボに比して、三環系抗うつ薬やSNRIでは1.8倍前後、その他の抗うつ薬でも1.6倍近くだったといい(Allain et al., 2017)、注意が必要です。
 双極性障害への抗うつ薬の使用は急速交代を招く(Wehr et al.,
1988
; Ghaemi et al., 2000; Muraoka et al., 2016)、すなわち抗うつ薬が双極性障害を不安定にすることには注意が必要です。双極性障害に抗うつ薬を用いた際、治療誘発性希死念慮Treatment Emergent Suicidal Ideationが生じる可能性が指摘されている(Akiskal & Benazzi, 2006)ことにも注意が必要です。
 しかも、双極性障害を抗うつ薬で治療することに意味はないようです。気分安定薬で治療されている約360人の双極性障害の半年間経過を観たとき、抗うつ薬の併用で23.5%、プラセボの併用で27.3%が回復したといい、抗うつ薬併用の利点は認められなかったといいます(Sachs et al., 2007)。他にも、抗うつ薬の追加に効果は無かったとする報告はあります(Tada et al., 2015)。
 双極性障害への抗うつ薬の処方には「元気になりたい!/元気になってほしい!」という回復への思いはこめられていても、治療効果は無いというのが結論のようです。


双極性障害(やうつ病)の専門的な治療の理解を深めたい方は、ぜひ『気分障害ハンドブック』をお読みください。
posted by ぷしこノート at 16:37| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月17日

妊娠中のカフェインとADHD

妊娠中に摂取したカフェインは胎児に移行することが確認されています(河田ら, 2004)。カフェインによる催奇形性はほぼ無いと考えられるものの、その児への精神的な影響の存在があるかもしれません。

妊娠17週の時点でのカフェイン摂取で、子が18ヶ月の時点での不注意や多動の傾向が増していたといい(Bekkhus et al., 2010)、妊娠15週の時点でのコーヒー摂取が日に8杯以上の母親から生まれた子が11歳になったとき、注意欠如多動症:ADHDのリスクが1.47倍だったといいます(Hvolgaard Mikkelsen et al., 2017)。
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動物実験のレベルでも、妊娠中のラットにカフェインを与えたところ、生まれた仔の行動に変化が生じたといい(Hughes & Beveridge, 1990, Nakamoto et al., 1991)、妊娠中のカフェインは生まれてくる子どもに影響がありそうです。

ただ、「妊娠中にカフェインを摂ったか」だけで調べた報告ではADHDの発症リスクに一定のものはなく、おそらく一杯だけでもいけないという話ではないようです。

posted by ぷしこノート at 18:07| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月07日

日本の精神医学の歴史 看護やPSWの学生向き

それまで精神障害者は各家庭で私宅監置されていましたが、1900年には改めて私宅監置での監護の手続きを定めた「精神病者監護法」が作られました。精神障害者の保護に関する最初の法律でした。

ドイツで精神医学を学び、帰国した呉秀三が当時の日本を改めて見て嘆き「日本の精神障害者は、病気という不幸プラス日本に生まれた不幸で『二重の不幸』だ」と1918年に発言し、私宅監置ではなく病院で扱うべきとする1919年に「精神病院法」を作りました。
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しかし、実際には順に東京、大阪、神奈川、福岡、鹿児島、愛知、兵庫、京都の8ヶ所に精神科病院が作られただけで、全国的には精神科病院の整備は進まず、私宅監置が続けられていました。

そこで、1950年に「精神衛生法」が作られ、私宅監置が廃止され、都道府県立の精神科病院の設置が義務付けられました。実際、例えば筑波大学がある茨城県であれば茨城県立こころの医療センターのもとの組織が1950年に、埼玉県であれば川口病院と東武脳病院が1952年に、山梨県であれば山梨県立北病院が1954年に、静岡県であれば静岡県精神保健福祉センターのもとの組織が1957年に、開院されています(県に指定された精神科病院があれば県立病院の設置の延期が認められていました)。1950年以降には全国的に精神科病院が作られていきます。

ここから、2つの事件が精神医療の歴史に影響を与えます。

1964年にはアメリカの駐日大使エドウィン・ライシャワーが、日本の精神障害者に刺されてしまい、これは「ライシャワー事件」と呼ばれています。日本の対外的なメンツに関わる大きな問題となり、「精神障害者が野放しにされてる」などと批判が生じました。精神病院はさらに増え続けました。同時に、1965年には精神衛生法が一部改正され、精神障害者をより医療につなげるため「通院医療費公費負担制度」が設けられたのです。
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1984年には精神科病院で患者虐待が行われていたことが発覚し、これは「宇都宮病院事件」と呼ばれています。精神衛生法に代わり1987年に「精神保健法」が作られ、任意入院、精神保健指定医、精神医療審査会など患者の人権に守るための制度が設けられました。

1993年に障害者基本法が作られ、身体障害者や知的障害者とともに精神障害者も障害者として福祉の対象と定められました。そして、1995年に精神保健福祉法が制定され、精神障害者の自立と社会参加の促進が目標とされ、精神障害者福祉手帳が作られました。



今ある日本の精神科医療も当たり前に存在しているのではなく、歴史があって今があるものなんですね。きっとこれからもさらに変わっていくことでしょう。
なお、大きな文字は看護師国家試験で出題されているポイントなので、看護学生は特に把握しておく必要があります。
ラベル:精神科 精神医学
posted by ぷしこノート at 17:57| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月01日

双極性障害へのドパミン作動薬 プロ向き

 双極性障害の治療は炭酸リチウムやバルプロ酸、ラモトリギンなどの気分安定薬で行われます。それでも抑うつ状態が生じることは多いもの。そんなとき、どんな手があるのでしょうか。

 抑うつ状態にある双極U型障害21名を6週間観察し、プラセボで9%、プラミペキソールで60%に改善が得られたという報告(Zarate et al., 2004)、双極性障害22名を6週間観察し、プラセボで20%に、プラミペキソールで67%に改善が得られたという報告(Goldberg et al., 2004)、プラミペキソールで双極性障害の44%に治療反応が得られていたとする報告(Perugi et al., 2001)、双極性うつ病の50%に改善が得られたとする報告(Sporn et al., 2001)があります。まとめて言えば、双極性うつ病にプラミペキソールを使用すると半数で改善が得られると言えるでしょう。

 ただ、躁状態が生じた症例報告があり(Bet et al., 2013)確実に安全とはいえませんし、長期的に有効なのかも不明です。双極性障害の人が抑うつ状態にあるとき、少なくとも数週間の間、プラミペキソールなどのドパミン作動薬を使ってみるのも手かもしれません。
posted by ぷしこノート at 18:57| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする