2017年09月14日

パニック症の評価

DSM-5に基づいたパニック発作パニック症について、問診の負担を減らすために問診票を作ってみました。自動的に診断が下されるような作りにはしてません。患者(と思われる人)に書いてもらったものを参考に医師が診察して診断の助けになればと思います。
パニック障害問診票.pdf

パニック症の重症度を数値化するものとして、パニック障害重症度尺度:Panic Disorder Severity Scale (PDSS)があります。通院する患者に記入させて状態を把握するのに有用です。患者自身が外来受診のたびに記録をつけて主治医に見せるのも有用でしょう。

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精神医学を学ぶ人への推薦図書

精神医学を学ぶ上で有用な本を紹介いたします。ここでは主に精神科医を主な対象と設定し、(精神科に興味のある)学生、若手の精神科医、ある程度の経験年数のある精神科医の3段階に分けて★をつけましたので、参考にしていただければ幸いです。

なお、この記事は良書の紹介を目的としており、このページにおいてアフィリエイトの類は一切していないことを明記しておきます。



■統合失調症

統合失調症のみかた,治療のすすめかた -
統合失調症のみかた,治療のすすめかた -
『統合失調症のみかた、治療のすすめかた』中外医学社
★☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
統合失調症について、この一冊を読み通したら基本から専門的内容までわかる本……そんな本が日本に無いと気付き、私自身が書き上げました。「統合失調症の赤本」と覚えてください。ただ統合失調症の患者を前に薬を処方しているだけでは気づけない、本当に目指すべき道筋を明確にしめしたつもりです。この本を読めば、統合失調症の治療はもっと面白くなるはず。電子版もあります。

過感受性精神病 治療抵抗性統合失調症の治療・予防法の追求 -
過感受性精神病 治療抵抗性統合失調症の治療・予防法の追求 -
『過感受性精神病』星和書店
☆☆☆初期研修医・医学生
★☆☆若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
日本の統合失調症治療は、多剤大量で治療されてきた(つい最近までの)過去があり、それがなぜ問題かを理解するのに有用な本です。小難しい本ですが大した量ではありません。統合失調症をよく診ることのある精神科医はぜひ理解しておくべき概念です(そして、統合失調症が沢山いる病棟の看護師も目を通しておくといいかもしれません……それには基本的な知識がある必要がありますが)。

統合失調症 -
統合失調症 -
『統合失調症』医学書院
☆☆☆ 初期研修医・医学生
★☆☆若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
統合失調症について、非常に詳しく書かれた分厚い本。通読は非常に困難。何度も手に取って詳しく学ぶための本です。精神科医の本棚に一冊あるといいでしょう。


■気分障害(うつ病+双極性障害)
気分障害ハンドブック -
気分障害ハンドブック -
『気分障害ハンドブック』メディカルサイエンスインターナショナル
★☆☆ 初期研修医・医学生
★★★!若手精神科医
★★★!ベテラン精神科医
精神科の外来を訪れる最多は気分障害。そんなうつ病や双極性障害の診断や治療について解説された本です。抑うつ状態を診てなんとなく抗うつ薬を処方してみるだけの診療ではなく、きちんと診断し、きちんと治療を段階的に試みる考え方がわかりやすく解説されています。読みやすい魅力的な文章で書かれており、丸ごと一冊通読できる一冊といえます。精神科専門医の試験対策にもなります。「気分障害の赤本」と覚えてください。
若手の精神科医にも、ある程度の経験をすでに有している精神科医にもおすすめできます。精神科をしっかり学ぼうと思う研修医も、精神科研修中に読んでしまうといいかもしれません……何科に進んでも、必ずうつ病患者には常に出会うのですから。

気分障害 -
気分障害 -
『気分障害』医学書院
☆☆☆ 初期研修医・医学生
★☆☆若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
気分障害について、非常に詳しく書かれた分厚い本。通読することは困難で、ある程度、気分障害について理解している人が、さらに詳しく学ぶための本です。精神科医の本棚に一冊あってほしい本です。

■不安障害
不安障害診療のすべて (精神科臨床エキスパート) -
不安障害診療のすべて (精神科臨床エキスパート) -
『不安障害診療のすべて』医学書院
☆☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
パニック障害や全般性不安障害、分離不安などの様々な不安障害について解説されています。分厚いように見えて十分、通読してしまえる文章量ですし、気になった項目だけ読んでも参考になります。精神医療に携わっていれば不安障害に対応する局面は多く、そんなときにはこの一冊を読んでおくと自信をもって適切な医療を提供できるはず。医学生や研修医に買えとは言いませんが、精神科医であれば持っておきたい一冊です。


■精神科診断/診断基準
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 -
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 -
『DSM-5』医学書院
☆☆☆(必読)初期研修医・医学生
★★★(必携)若手精神科医
★★★(必携)ベテラン精神科医
精神医療に関わる上で絶対に避けて通れないのが精神科の診断基準であるDSM-5をここで挙げるのは当たり前すぎるかもしれません。それは診断の過程をアルゴリズムにしたものであると同時に、その精神障害の特徴を理解する上でも役立つものです。精神科に関わるのであれば必ず持っておくべき本。小さな「デスクトップリファレンス」と、解説がふんだんに盛り込まれ非常に分厚く大きな本があり、専門家であれば大きな方も持っておきたいものですが、まずは小さな方を入手することからでしょう。


語呂で覚える!DSM‐5 -
語呂で覚える!DSM‐5 -
『語呂で覚える!DSM-5』メディカルサイエンスインターナショナル
★★☆!初期研修医・医学生:
★★★!若手精神科医
★★★!ベテラン精神科医
診断基準のDSM-5だけでなく、精神科に関する物事がざっくり解説され、覚えるための語呂をたくさん紹介した本です。診断基準を本棚やポケットに入れておいては、臨床の場面では効率が悪く、基準が頭に入っていなければきちんと診察の際に情報を集めることも困難になるものです。また、語呂で覚えてしまえば、その障害について容易に理解が進むはず。
精神科医であればぜひ覚えてしまうべきであり、ベテラン精神科医もこれまでうろ覚えだった領域に挑戦してほしいものです。研修医や看護師、医療系の学生であれば、DSM-5そのものをめくるのも面倒なものであり、ざっくりと解説されたこの本がDSM-5そのものよりも大いに役立つはずでしょう(比較すれば価格も安上がりだし)。


精神科診断戦略: モリソン先生のDSM-5徹底攻略case130 -
精神科診断戦略: モリソン先生のDSM-5徹底攻略case130 -
『精神科診断戦略: モリソン先生のDSM-5徹底攻略』医学書院
★☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
様々な精神障害について丁寧に解説されている。多くの症例が提示されており、読み物としても面白く、すべてを通読するのは大変でも、開いたページからついつい読み進んでしまえる魅力的な一冊。DSM-5には無味乾燥な基準しかありませんが、この本を手にすれば各精神障害が生き生きとイメージできるようになり、それぞれについてより詳しくなれることでしょう。原著は業界で非常に人気のある名著"DSM-5 Made Easy"。特に精神科医に(精神科に興味のある医学生や研修医にも)オススメの一冊。


■薬物療法
本当にわかる精神科の薬はじめの一歩〜疾患ごとの具体的な処方例で、薬物療法の考え方とコツ、治療経過に応じた対応が身につく! -
本当にわかる精神科の薬はじめの一歩〜疾患ごとの具体的な処方例で、薬物療法の考え方とコツ、治療経過に応じた対応が身につく! -
★☆☆初期研修医・医学生
★★☆若手精神科医
☆☆☆ベテラン精神科医
『本当にわかる精神科の薬はじめの一歩』羊土社
初期〜後期の研修医や学生が読むのには非常に良い一冊。非常に読みやすく、最初に理解すべきことに的を絞って書かれています。精神科に進む予定がない研修医も、精神科の研修中に読み通しておくと、将来きっと役に立つでしょう。


ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版 -
ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版 -
『ストール精神薬理学エセンシャルズ』メディカルサイエンスインターナショナル
☆☆☆初期研修医・医学生
★★☆若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
向精神薬の薬理について詳細に書かれた分厚い本。薬理は非常に難しい領域ですが、それでもストール先生の手にかかればこれだけわかりやすくなるものです……それにしても難しいかも。初期研修医や医学生が手にするには無理があります。精神科の道に進むと決めた後期研修医は早いうちに持っておくべきですし、精神科医の道をずいぶんと進んできた医師も、さらに学びを深めるために持っておきたい本です。

今日の精神疾患治療指針 第2版 -
今日の精神疾患治療指針 第2版 -
『今日の精神疾患治療指針』医学書院
☆☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
様々な精神障害につき、診断や治療の具体的内容がまとめられた分厚い一冊。疑問に思ったとき、困ったときに開くと非常に助かります。

■症候学
精神症候学 -
精神症候学 -
『精神症候学』弘文堂
☆☆☆初期研修医・医学生
★★★若手精神科医
★★★ベテラン精神科医
精神科の道に進むと、症状ひとつ扱ういも難しい用語のオンパレードです。そんなとき、この一冊が本棚にあると、その用語が何を意味するのかや、あなたが見た患者の症状は何という専門用語で言い表したものかを学ぶことができます。丸ごと一冊をぐいぐいと読み進めるには無理がありますが、興味があった(または必要が生じた)ところから少しずつ読んでいくうちに、症状を言い表す専門用語に詳しくなれることでしょう。初期研修医や医学生は……買わないことでしょう。しかし、医局の本棚にこの本があったら手にとるといいでしょう。そして、精神科の道に進む者は早いうちに持っておくべき本です。

■頭部画像
脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (脳・神経編)) -
脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (脳・神経編)) -
『脳単』エヌ・ティー・エス
★★☆初期研修医・医学生
★★☆若手精神科医
★★☆ベテラン精神科医
精神医学では必ず脳の話が出てきます。脳の各部位の名称や簡単な説明が分かりやすい図とともに示されています。学術的な本ではありませんが、学ぶ腕では非常に良い参考書といえます。
posted by ぷしこノート at 10:33| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月07日

神経性やせ症の身体症状

神経性やせ症(いわゆる拒食症)の人は、髪の毛が抜けやすくなりますが、同時にうぶ毛が増え、5αリダクターゼの活性低下が影響していると考えられています(Glorio et al., 2000
毛とアノレキ.jpg

神経性やせ症の人は、コレステロール値が高い傾向にあるといい、これは体重が回復した際には正常化するといいます(Matzkin et al., 2006)。koresute.jpg

神経性やせ症では、甲状腺ホルモンが低下しており(Smorawińska et al., 2003)、甲状腺自体が萎縮しているといいます(Støving et al., 2001)。
アノレキと甲状腺.jpg

神経性やせ症では、栄養摂取の不足のみならず、嘔吐や下剤乱用に伴う電解質の喪失で、しばしば低カリウム血症が生じています。
アノレキ低カリウム.jpg

神経性やせ症では、しばしば過剰に活動する過活動が生じます。運動でさらなる痩せを求めるだけでなく、不快な気分の解消や、強迫性によるものと考えられています。
過活動.jpg

極端な拒食が続いた低栄養状態で、急に過量の栄養を再開すると低リン血症が生じ、リフィーディング症候群(再栄養症候群)という多臓器不全が生じることがあり、栄養は少量から再開して徐々に増量し、その際に血液検査でリンの値を繰り返し確認して補充しておく必要があります。
アノレキ再栄養.jpg

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2017年08月25日

統合失調症と多飲水 プロ向き

統合失調症の患者さんが過度に飲水して水中毒、すなわち低ナトリウム血症に陥ることがあります。精神科病院に入院している患者の約10%に病的な多飲水が存在し、その結果として約3%に水中毒が生じるといいます(佐藤ら, 2009)。このことは「入院中の中3の体重(中毒3%、多飲10%)」とでも覚えておきましょう。第8回精神科専門医試験でも出題されています。
水中毒.jpg.jpg

多飲水の原因は明確ではなく、複数の要素が考えられます。中には妄想や幻聴に基づく多飲水もありますが、そのようなケースは10%ほどに過ぎず(Millson et al., 1992)決して多くありません。向精神薬の抗コリン作用が多飲水を招いている可能性には注意が必要です。慢性的なドパミンD2遮断が、アンジオテンシンIIによる口渇を増強させる可能性も指摘されています(Verghese et al., 1993)。

また、水中毒に至る多飲水の患者には喫煙者(de Leon et al., 2002)、アルコール使用障害の既往(Poirier et al., 2010)が多いといいます。水中毒の結果として生じる酩酊感を求めて多飲水に及ぶことも少なくなく、多飲水に及ぶ患者の85%が飲むと気分がいいからだと答えたといい(Millson et al., 1992)、「水使用障害/水依存」と考えてもいいかもしれません。そうであるならば、DSM-5では他の物質の使用障害Other Substance Use Disorderのひとつとして「水使用障害」と診断することになるでしょう(DSM-5, p.572)。

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慢性的な水中毒よりも急速に生じた水中毒の方が、症状が重症になる傾向があるといいます。水中毒による低ナトリウム血症は脳浮腫をもたらし、酩酊状態が生じ、その後30-60分ほどでけいれん発作が生じることが多いといいます(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.50-1)。水中毒の後に悪性症候群横紋筋融解、播種性血管内凝固症候群:DICが生じることもあります。多飲水患者の死亡リスクは2.84倍で、死亡時の年齢の中央値は非多飲水患者が68歳だったのに対して多飲水患者は59歳だったといい(Hawken et al., 2009)、多飲水は寿命を10年近く縮めると理解しておくとよさそうです。

一日のうちに体重がベースから10%増えた時点ですぐに対処すべきであり、体内に貯留した水分が上限に達する16-21時はけいれん発作が生じることが多く注意が必要です(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.36-7)。尿比重、血清ナトリウム濃度、日内体重変動の3つが多飲水の指標として有用であり(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.18-20)、多飲水の可能性がある患者に対しては、これらを組み合わせて観察するといいようです。

血清ナトリウム濃度が120mEq/l以下で命に危険が生じうる諸症状が出現するとされ、そのようなときには120-125mEq/lほどを目標とした電解質補正が必要といいます(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.22)。
電解質補正の際、その補正速度が速すぎれば、橋中心髄鞘崩壊が生じうるので注意が必要です。一時間に1.5mEq/lを超える速度は橋中心髄鞘崩壊のリスクを上げるとされます。一日に12mEq/l以上の速度も橋中心髄鞘崩壊を招きます(Chua et al., 2002)。橋中心髄鞘崩壊では、意識障害、四肢麻痺、構音障害、嚥下障害が生じ、予後不良とされます。そして、水分摂取を制限し、体重のモニタリングをすることになります。
また、一時間に1.0mEq/lを超える速度の補正は横紋筋融解を招くといいます(柏浦ら, 2013)。
以上からすると、一時間に0.5〜1.0mEq程度が安全と言えそうです。

統合失調症を多数かかえる精神病院では、少なからず生じうる多飲水や水中毒。きちんとその可能性について意識し、適切に対処したいものです。精神科専門医試験にも出題されています[専1, 8]。

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2017年08月18日

双極性障害の自殺リスク プロ向き

 双極性障害の人は、年に0.4%が自殺で亡くなるといい(Tondo et al., 2003)、一般人口の20-30倍の自殺リスクといい(Tondo et al., 2003; Pompili et al., 2013)、双極性障害の15-20%が最終的に自殺で亡くなるといいます(Pompili et al., 2013)。

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 自殺念慮はうつ病にも存在しますが、「自殺」「自殺企図」「希死念慮」のいずれも、うつ病よりも双極性障害の方が多くTondo et al., 2007)、自殺企図歴のある抑うつ状態の患者を診たとき、その7割は双極性障害といいます(Inoue et al., 2015)。

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 双極性障害は気分安定薬を用いた治療が重要なのは言うまでもありません。長期間のリチウムの使用は自殺リスクを5分の1に減らすといいます(Baldessarini et al., 2006)。それも、早くに気分安定薬による治療を開始した方が自殺リスクは少ないといいます(Altamura et al., 2010)。さらに、長期的なスパンだけでなく、短期間でも気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)が自殺リスクを7分の1〜10分の1ほどに減らしたといい(Tsai et al., 2016)、水道水中のリチウム濃度が高いほど自殺率が低かったといい(Ohgami et al., 2009)、気分安定薬には双極性障害の治療効果とは別に、自殺リスクそのものを下げる力があるのかもしれません。過量服薬に及べばリチウム自体が致死的になることには注意が必要ですが、自殺リスクには積極的に気分安定薬の使用を検討すべきでしょう。

 双極性障害の抑うつ状態をうつ病と同等に治療したとき、抗うつ薬が治療誘発性希死念慮Treatment Emergent Suicidal Ideationを引き起こす可能性が指摘されている(Akiskal & Benazzi, 2006)ことには注意が必要でしょう。

posted by ぷしこノート at 16:52| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

双極性障害に抗うつ薬? 患者から専門医まで

 双極性障害は、平常気分でいられる期間がおよそ半分程度で、残りの期間を双極T型であれば躁や軽躁の3.5倍の期間を抑うつで過ごし(Judd et al., 2002)、双極U型であれば軽躁の38.7倍の期間を抑うつで過ごすといい(Judd et al., 2003)、抑うつ状態が非常に多い病気です。
 双極性障害であれば気分安定薬で治療が行われるはずですが、抑うつ状態が多いことから抗うつ薬を使いたくなるもの。さて、双極性障害に抗うつ薬を使っていいのでしょうか。

 双極性障害の患者に抗うつ薬で用いたとき、状態が生じること(いわゆる躁転)が増えることを心配する医療者多いもの。ただ、気分安定薬で治療しているのであれば、抗うつ薬を追加しても躁転は増えないとする見かたもあります(Tada et al., 2015)。ただ、それも薬によって違うようで、躁転の率はプラセボに比して、三環系抗うつ薬やSNRIでは1.8倍前後、その他の抗うつ薬でも1.6倍近くだったといい(Allain et al., 2017)、注意が必要です。
 双極性障害への抗うつ薬の使用は急速交代を招く(Wehr et al.,
1988
; Ghaemi et al., 2000; Muraoka et al., 2016)、すなわち抗うつ薬が双極性障害を不安定にすることには注意が必要です。双極性障害に抗うつ薬を用いた際、治療誘発性希死念慮Treatment Emergent Suicidal Ideationが生じる可能性が指摘されている(Akiskal & Benazzi, 2006)ことにも注意が必要です。
 しかも、双極性障害を抗うつ薬で治療することに意味はないようです。気分安定薬で治療されている約360人の双極性障害の半年間経過を観たとき、抗うつ薬の併用で23.5%、プラセボの併用で27.3%が回復したといい、抗うつ薬併用の利点は認められなかったといいます(Sachs et al., 2007)。他にも、抗うつ薬の追加に効果は無かったとする報告はあります(Tada et al., 2015)。
 双極性障害への抗うつ薬の処方には「元気になりたい!/元気になってほしい!」という回復への思いはこめられていても、治療効果は無いというのが結論のようです。


双極性障害(やうつ病)の専門的な治療の理解を深めたい方は、ぜひ『気分障害ハンドブック』をお読みください。
posted by ぷしこノート at 16:37| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月17日

妊娠中のカフェインとADHD

妊娠中に摂取したカフェインは胎児に移行することが確認されています(河田ら, 2004)。カフェインによる催奇形性はほぼ無いと考えられるものの、その児への精神的な影響の存在があるかもしれません。

妊娠17週の時点でのカフェイン摂取で、子が18ヶ月の時点での不注意や多動の傾向が増していたといい(Bekkhus et al., 2010)、妊娠15週の時点でのコーヒー摂取が日に8杯以上の母親から生まれた子が11歳になったとき、注意欠如多動症:ADHDのリスクが1.47倍だったといいます(Hvolgaard Mikkelsen et al., 2017)。
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動物実験のレベルでも、妊娠中のラットにカフェインを与えたところ、生まれた仔の行動に変化が生じたといい(Hughes & Beveridge, 1990, Nakamoto et al., 1991)、妊娠中のカフェインは生まれてくる子どもに影響がありそうです。

ただ、「妊娠中にカフェインを摂ったか」だけで調べた報告ではADHDの発症リスクに一定のものはなく、おそらく一杯だけでもいけないという話ではないようです。

posted by ぷしこノート at 18:07| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月07日

日本の精神医学の歴史 看護やPSWの学生向き

それまで精神障害者は各家庭で私宅監置されていましたが、1900年には改めて私宅監置での監護の手続きを定めた「精神病者監護法」が作られました。精神障害者の保護に関する最初の法律でした。

ドイツで精神医学を学び、帰国した呉秀三が当時の日本を改めて見て嘆き「日本の精神障害者は、病気という不幸プラス日本に生まれた不幸で『二重の不幸』だ」と1918年に発言し、私宅監置ではなく病院で扱うべきとする1919年に「精神病院法」を作りました。
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しかし、実際には順に東京、大阪、神奈川、福岡、鹿児島、愛知、兵庫、京都の8ヶ所に精神科病院が作られただけで、全国的には精神科病院の整備は進まず、私宅監置が続けられていました。

そこで、1950年に「精神衛生法」が作られ、私宅監置が廃止され、都道府県立の精神科病院の設置が義務付けられました。実際、例えば筑波大学がある茨城県であれば茨城県立こころの医療センターのもとの組織が1950年に、埼玉県であれば川口病院と東武脳病院が1952年に、山梨県であれば山梨県立北病院が1954年に、静岡県であれば静岡県精神保健福祉センターのもとの組織が1957年に、開院されています(県に指定された精神科病院があれば県立病院の設置の延期が認められていました)。1950年以降には全国的に精神科病院が作られていきます。

ここから、2つの事件が精神医療の歴史に影響を与えます。

1964年にはアメリカの駐日大使エドウィン・ライシャワーが、日本の精神障害者に刺されてしまい、これは「ライシャワー事件」と呼ばれています。日本の対外的なメンツに関わる大きな問題となり、「精神障害者が野放しにされてる」などと批判が生じました。精神病院はさらに増え続けました。同時に、1965年には精神衛生法が一部改正され、精神障害者をより医療につなげるため「通院医療費公費負担制度」が設けられたのです。
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1984年には精神科病院で患者虐待が行われていたことが発覚し、これは「宇都宮病院事件」と呼ばれています。精神衛生法に代わり1987年に「精神保健法」が作られ、任意入院、精神保健指定医、精神医療審査会など患者の人権に守るための制度が設けられました。

1993年に障害者基本法が作られ、身体障害者や知的障害者とともに精神障害者も障害者として福祉の対象と定められました。そして、1995年に精神保健福祉法が制定され、精神障害者の自立と社会参加の促進が目標とされ、精神障害者福祉手帳が作られました。



今ある日本の精神科医療も当たり前に存在しているのではなく、歴史があって今があるものなんですね。きっとこれからもさらに変わっていくことでしょう。
なお、大きな文字は看護師国家試験で出題されているポイントなので、看護学生は特に把握しておく必要があります。
ラベル:精神科 精神医学
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2017年08月01日

双極性障害へのドパミン作動薬 プロ向き

 双極性障害の治療は炭酸リチウムやバルプロ酸、ラモトリギンなどの気分安定薬で行われます。それでも抑うつ状態が生じることは多いもの。そんなとき、どんな手があるのでしょうか。

 抑うつ状態にある双極U型障害21名を6週間観察し、プラセボで9%、プラミペキソールで60%に改善が得られたという報告(Zarate et al., 2004)、双極性障害22名を6週間観察し、プラセボで20%に、プラミペキソールで67%に改善が得られたという報告(Goldberg et al., 2004)、プラミペキソールで双極性障害の44%に治療反応が得られていたとする報告(Perugi et al., 2001)、双極性うつ病の50%に改善が得られたとする報告(Sporn et al., 2001)があります。まとめて言えば、双極性うつ病にプラミペキソールを使用すると半数で改善が得られると言えるでしょう。

 ただ、躁状態が生じた症例報告があり(Bet et al., 2013)確実に安全とはいえませんし、長期的に有効なのかも不明です。双極性障害の人が抑うつ状態にあるとき、少なくとも数週間の間、プラミペキソールなどのドパミン作動薬を使ってみるのも手かもしれません。
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2017年07月27日

パニック症と妊娠

 パニック症は女性は男性よりも2倍多く、若年女性であれば妊娠する可能性があります。パニック症の人が妊娠したとき、どのようなことが考えられるでしょうか。

 パニック症の人に35%二酸化炭素を吸わせることで61.4%にパニック発作が誘発されるといい(Nardi et al., 2007)、パニック症だと青斑核の二酸化炭素の感受性が亢進してしており、二酸化炭素はパニックを誘発します。そして、妊婦は胎児の成長に伴い肺が押し上げられ呼吸能が軽度低下する傾向にある中、二酸化炭素の量は増え、パニック症が増えることが危惧されます。

 ただ、実際にはパニック症の人が妊娠したとき、43%は改善、33%は悪化、23%は不変だったといい、妊娠中にそこに一定の傾向は無いようです(Northcott & Stein, 1994)。ただ、産褥期には63%が悪化したといい、出産後には一時的に悪化すると考えておくといいでしょう(Northcott & Stein, 1994)。妊娠中にパニック症が新たに発症する率は1.3%といい(Güler et al., 2015)、そう目立って多くは無さそうです。

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 パニック症はSSRIなどの抗うつ薬で治療されるもので、妊娠中のSSRI使用に伴うリスクについて考える必要はありますが、大きなリスクは無い薬。その薬物治療を続けるのであれば、パニック症の人が妊娠したときには、出産直後の一次的な悪化は予測されますが、全体を通してそう心配するものではないのかもしれません。
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