2017年07月27日

パニック症と妊娠

 パニック症は女性は男性よりも2倍多く、若年女性であれば妊娠する可能性があります。パニック症の人が妊娠したとき、どのようなことが考えられるでしょうか。

 パニック症の人に35%二酸化炭素を吸わせることで61.4%にパニック発作が誘発されるといい(Nardi et al., 2007)、パニック症だと青斑核の二酸化炭素の感受性が亢進してしており、二酸化炭素はパニックを誘発します。そして、妊婦は胎児の成長に伴い肺が押し上げられ呼吸能が軽度低下する傾向にある中、二酸化炭素の量は増え、パニック症が増えることが危惧されます。

 ただ、実際にはパニック症の人が妊娠したとき、43%は改善、33%は悪化、23%は不変だったといい、妊娠中にそこに一定の傾向は無いようです(Northcott & Stein, 1994)。ただ、産褥期には63%が悪化したといい、出産後には一時的に悪化すると考えておくといいでしょう(Northcott & Stein, 1994)。妊娠中にパニック症が新たに発症する率は1.3%といい(Güler et al., 2015)、そう目立って多くは無さそうです。

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 パニック症はSSRIなどの抗うつ薬で治療されるもので、妊娠中のSSRI使用に伴うリスクについて考える必要はありますが、大きなリスクは無い薬。その薬物治療を続けるのであれば、パニック症の人が妊娠したときには、出産直後の一次的な悪化は予測されますが、全体を通してそう心配するものではないのかもしれません。
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2017年06月29日

妊娠中のバルプロ酸

バルプロ酸は、気分安定薬や抗てんかん薬として臨床ではよく用いられる薬です。このバルプロ酸、妊婦にはオススメできません。

妊娠中に1,000mg以上のバルプロ酸を服用していると、そのときの児が3歳になったとき、IQが10以上低くなるといいます(Maedor et al., 2009)。このとき、低用量の低用量のバルプロ酸では低下は目立たず、カルバマゼピンの影響は少ないようであり、ラモトリギンの影響はほぼみられなかったといいます。

また、一般的には1万人に6人ほどの割合で生じる神経管閉鎖不全(二分脊椎や無脳症)が、妊娠第T期のバルプロ酸服用下で出生した児では1.5%に生じるといい(Lindhout & Schmidt, 1986)、バルプロ酸の使用で二分脊椎のリスクは12.7倍になるといいます(Jentink et al., 2010)。

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妊娠の可能性がある若年女性のバルプロ酸の使用は避けた方がよく、使用するとしても量は少ない方がいいようです。ただ、バルプロ酸の摂取で葉酸が低下するといい(Karabiber et al., 2003)、一般的に妊娠の際、葉酸を摂取していると二分脊椎のリスクは低下するといい(MRC Vitamin Study Research Group.1991)、もしバルプロ酸を使わざるをえないのであれば、前もって十分な葉酸サプリメントを併用しておくべきでしょう。


『気分障害ハンドブック』p.179-80でも、二分脊椎のリスクにつき扱われており、参考になります。バルプロ酸の二分脊椎のリスクは、精神科専門医試験にも繰り返し出題されている重要な事項です。

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2017年06月17日

心理教育の目的 医療系の学生からプロまで

心理教育とは、Andersonらにより『分裂病と家族』で提唱された、統合失調症につき患者本人や家族に説明するものから始まり、精神障害などの受容しにくい問題を持つ人たちに、正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え、病気や障害の結果もたらされる諸問題・諸困難に対する対処方法を修得してもらい、主体的な療養生活を営めるよう援助する技法です(心理社会的援助プログラムガイドライン)。精神医療では、様々な精神障害が対象となりますが、やはり最もよく語られているのが統合失調症に対するもの。そんな心理教育の目的について、統合失調症を中心に挙げてみましょう。

【インフォームド・コンセントの一部として】
インフォームド・コンセントの要素、「医療者による説明」「患者の理解」「患者の自由意思による同意の決定」の3つのうち2つ、すなわち医療者が説明し患者に理解を得る点が心理教育に含まれています。

【治療への動機づけを強めるため】
患者さんも「薬を続けろ」と言われただけで、薬物治療を続けようと十分には思えないもの。なぜ薬を続けた方がいいのかを理解してこそ主体的に治療を継続できることでしょう。実際、心理教育を受けた人の方が、治療を適切に継続できていたといいます(Xia et al., 2011)。

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【病識を強めるため】
身体の病気と違い、精神障害はしばしば自分では病気について気づきにくくなるものです。自分の何が病気の症状なのかを知ることは大切なことです。また、病気について適切に知ることは自らの病気のスティグマを軽減するといいます(Uchino et al., 2012)。

【症状を外在化するため】
自らに起きる心の変化について、病気の症状と客観的に理解することを促しすことができます。「死にたい」と思うより「希死念慮が出た」と思える方が、「電波で命令されている」と思うより「幻聴が聴こえている」と思う方が、その症状の行動化などの問題を減らし、症状による苦痛を減らし、認知の変化の余地を与え、症状自体を軽くする可能性もあります。

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【再発/再入院を減らすため】
これまでに挙げた様々な要素による結果として、再発や再入院を減らすことができるといいます(Xia et al., 2011; Zhao et al., 2015)。


統合失調症について理解を深めるための専門書『統合失調症のみかた、治療のすすめかた』もどうぞよろしくお願いいたします!
統合失調症のみかた,治療のすすめかた -
統合失調症のみかた,治療のすすめかた -
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2017年05月27日

こころのバリアフリー宣言とは ブログで授業 看護学生向き

 精神に限らず様々な障害を持つ人が世の中に沢山いる中、障害者でも一般の人たちと同等の生活を送れるような社会にする「ノーマライゼーション」。精神障害におけるノーマライゼーションを実現すべく、厚労省から2004年に出されたのが「こころのバリアフリー宣言」です。その中心となる考えは「精神疾患への偏見をなくすための正しい理解の促進」です。

 というのも、精神障害者に対する否定的な見かたは残念ながら一般的に存在し(中村, 2001)、一般市民の抱く否定的な見かたが精神障害者の社会生活に悪影響を与え(山口ら, 2011)、ノーマライゼーションを困難なものとします。
 しかし、一般市民も精神障害について知ることで、精神障害に対する認識が改善するといいます(玉里&竹島, 1998)。

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 以上のように、こころのバリアフリー宣言により、精神障害に対する社会的な認識を改善させることが、精神障害者の社会生活を改善させノーマライゼーションをもたらすと考えられます。精神医療に関わる人、看護学生などは、きちんとこの概念を理解しておきましょう。

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2017年05月11日

むずむず脚症候群 学生から専門医まで

夜、眠るとすると足がムズムズして動かさずにいられなくなることがあり、これは「レストレスレッグス症候群」「むずむず脚症候群」と呼ばれ、この概念を1945年に初めて提唱したAnders Ekbomの名から「エクボン症候群/エクボム症候群」とも呼ばれます。その通り「足がムズムズする」が主訴の人もいますが、ただ「眠れない」とだけ不眠を訴える人の中にもレストレスレッグス症候群の人がいることも少なくありません。そして、中には「足に寄生虫がいる」と訴える皮膚寄生虫妄想の人もおり、寄生虫の証拠だといって皮膚のかけらや糸くずを(古くはマッチ箱などに入れて)持ってくることがあり「マッチ箱徴候MatchBox Sign」と呼ばれます(Bouree et al., 2007)。5%の人に生じるといい、年齢を経るごとに頻度は上がり、女性の方が多い可能性が指摘されています。

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脚のムズムズと言えば、似たものに錐体外路症状のひとつであるアカシジアという概念があります。どちらも足がムズムズして、足を動かさずにはいられなくなるものですが、レストレスレッグス症候群は決まって夜に生じるもので、アカシジアは抗精神病薬によって誘発され、その時間帯は夜に限らない点で異なります。
ドパミン神経系の機能低下で生じるとされ、夜にドパミン神経系の機能が低下することで夜に症状が出現するものと考えられています。レストレスレッグス症候群の人、睡眠中には約80%で、睡眠時周期性四肢運動が生じます。

レストレスレッグス症候群の多くは続発性で、その背景には身体的な問題や変化が存在します。葉酸欠乏やビタミンB12の欠乏、マグネシウムの欠乏、甲状腺機能低下、胃切除などが背景に存在することもありますが、最も代表的なのは腎機能の低下や妊娠、そして、鉄欠乏でしょう。
ドパミンはチロシンから作られますが、その酵素の補因子に鉄があり、ドパミン受容体にも鉄があり、鉄不足はドパミン神経系に影響を与えます。

腎機能低下でレストレスレッグス症候群は生じやすく、eGFRが60以上では2%以下、60未満で5-6%ほど、15未満では23%にレストレスレッグス症候群が生じます(Miklos et al., 2005)。腎臓から分泌されるエリスロポエチンが低下すると、肝臓に貯蔵された鉄の輸送を阻害するヘプシジンが増加します。

胃の切除で胃酸が減り、鉄の吸収が落ち、レストレスレッグス症候群が生じやすくなります。妊婦の4人に1人にレストレスレッグス症候群が生じるといい(『精神科診断戦略』)、妊娠による鉄や葉酸の消費が原因と考えられます。

レストレスレッグス症候群の治療は、フェリチンなどで鉄の状態を把握するなど背景に背景に存在する基礎疾患を確認し、その基礎疾患の治療が最優先です。そして、対症療法としてドパミン作動薬が第一選択薬とされ(『今日の精神疾患治療指針』)、L-dopa、ベンゾジアゼピンなどが用いられます。

「眠れない」と聞いたらレストレスレッグス症候群の可能性を考え、レストレスレッグス症候群を診たら身体的な背景の存在を考えるべきでしょう。

ラベル:精神医学 睡眠
posted by ぷしこノート at 22:05| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月29日

うつ病への亜鉛サプリ 試験に出ない健康知識

 普通に日本で暮らしていれば不足することはそれほどはない亜鉛。しかし、そんな亜鉛もうつ病のときにはサプリメントで摂取した方がよさそうです。そんな亜鉛について解説しましょう。

 海馬細胞外で亜鉛濃度が増加するとグルタミン酸濃度が減少し、GABA濃度が増加し、亜鉛欠乏は視床下部下垂体副腎系を異常に亢進させ、ストレス感受性が増大し、うつ発症の一因になりうるといいます(『亜鉛の機能と健康』)。
 実際、うつ病患者は血中の亜鉛濃度が低かったといい(McLoughlin & Hodge, 1990; Siwek et al., 2010; Amani et al., 2010; Swardfager et al., 2013)、通常の抗うつ薬治療で難治の患者は亜鉛濃度が低い傾向にあり(Maes et al., 1997; Siwek et al., 2010)、うつ病が改善したときには亜鉛の濃度が改善していたといいます(McLoughlin & Hodge, 1990; Narang et al., 1991; Siwek et al., 2010; DiGirolamo et al., 2010)。
 
 亜鉛サプリメントがうつ病の補助療法として有効といいます(Nowak et al., 2003; Sowa-Kućma et al., 2008; Ranjbar et al., 2013)。よく「亜鉛を食事で補うとすれば?」と質問をされますが、亜鉛サプリメント1粒10〜15mg分は、牡蠣100gや豚レバー200g、アーモンド300gほどに相当します(簡単!栄養andカロリー計算)。毎日、牡蠣100gやレバー200gを食べるより、毎日一粒サプリメントを飲む方が現実的でしょう。薬物治療と並行して行える亜鉛の補充は、有害性が低く、(もし無効だったとしても)サプリメントが安価であり、うつ病の方には積極的に提案したい方法のひとつです。

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2017年04月20日

統合失調症 ブログで授業(プロ向け)

統合失調症について、精神科の医療従事者であれば、これらを知っておくと、少し理解が深まるかもしれません。

抗精神病薬を複数使用すると死亡リスクは「2.5倍」です。



統合失調症は自殺が多いことに要注意。




統合失調症に関係するパーソナリティ障害3つを理解しておきましょう!



持効性注射剤 Long Acting Injection:LAIの方が治療成績は良い傾向にあります。

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2017年04月13日

ワルファリンと抗うつ薬 ブログで授業(プロ向け)

ワルファリンの添付文書には、三環系抗うつ剤、アミトリプチリン塩酸塩等、パロキセチン塩酸塩水和物、フルボキサミンマレイン酸塩が挙げられ「併用する場合には血液凝固能の変動に十分注意しながら投与すること」と記載されています。抗うつ薬とワルファリンを併用したとき、ワルファリンが効きすぎることがあることには注意が必要です。ではなぜ、ワルファリンの作用が強まるのでしょう。その理由を3つ語れるようになっておきましょう。

1)蛋白結合率
ワルファリンの血漿蛋白結合率は97%とされ(ワーファリン)、蛋白と結合しているワルファリンは不活性型となり、残りの数%が遊離型=活性型として作用しています。そして、抗うつ薬の蛋白結合率は、フルボキサミンが81%(デプロメール)、パロキセチンが93%または95%(パキシル)、デュロキセチンが97-99%(サインバルタ)、セルトラリンが98%(ジェイゾロフト)です。そのような蛋白結合率が高い薬剤が他にあると、蛋白結合率が高いと同時に蛋白と結合する力が弱いワルファリンのような薬剤は、遊離型が増え効果が想定以上に強まってしまいます。例えるならば「ワルファリンさんは、椅子に座りたがるわりに、椅子取りゲームに弱く、ライバルがいると立たざるをえなくなる」といったところでしょう。




2)チトクロームP450の阻害
ワルファリンは肝酵素チトクロムP450(CYP)の2C9によって代謝されます(ワーファリン)。フルボキサミンのCYP2C9阻害(デプロメール)により、ワルファリンの代謝が妨げられ血中濃度が上昇する可能性があります。
専門家であれば、フルボキサミンとパロキセチンが阻害するチトクロムP450のサブタイプを把握しておかなければなりません。
このことは精神科専門医試験(第7回)にも出題されています。

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3)抗うつ薬の血小板への作用
抗うつ薬は脳内だけでなく血小板でのセロトニンの動態にも作用し、血小板からのセロトニン放出が血管損傷に対する止血機構にも影響しています。セロトニンの再取り込みが阻害されれば、血小板では放出すべきセロトニンが枯渇し、出血傾向が助長される可能性があります。実際、SSRIの使用で消化管出血が増えたり(de Abajo et al.,1999)、心血管イベント後の再発が抗うつ薬で半分前後に減ったり(Coupland et al., 2016)するといいます。
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 以上、1)パロキセチンなどの併用で遊離型のワルファリンの増加、2)フルボキサミンなどの併用でCYP2C9阻害によるワルファリン血中濃度の増加、3)抗うつ薬全般による血小板凝集能の低下、の3つがあることを知っておきましょう。

ラベル:気分障害 うつ病
posted by ぷしこノート at 19:42| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月30日

嗅覚と認知症 ブログで授業(一般からプロまで。学校のテストには出ない)

アルツハイマー型認知症(やレビー小体型認知症)の発症に先行して、嗅覚低下が生じているといいます(Djordjevic et al., 2008; Peters et al,2003; Williams et al., 2009)。嗅覚による認知症のスクリーニングも試みられています(Stamps et al., 2013; 小林ら, 2015)。ご老人に対応するとき、嗅覚の低下が生じていないかを生活の中から観察しておくことは、認知症に早く気づくことにつながるかもしれません。

また、マウスやラットの嗅球を摘出するとコリン作動性神経の異常が生じ、認知機能が低下するといい(Yamamoto et al., 1997; Hozumi et al., 2003)、脳の変性の結果としての嗅覚低下だけでなく、嗅覚低下が認知機能を悪化させる可能性もあり興味深いものです。嗅覚刺激が認知機能を高める可能性が指摘されており(Moss et al., 2003)、嗅覚をトレーニングしなおすことによって認知症を予防できる可能性にも注目されています(木村ら, 2005)。いわゆるアロマセラピーを試みることになりますが、認知症予防を目的とした商品も登場しているようです。その有効性は十分に分かりませんが、少なくとも副作用や侵襲性が少ない点で、試してもいいのかもしれません。


アロマの認知症予防効果について語られた本もあるようです(私自身は未読)。


認知症で嗅覚低下が生じうることは、精神科専門医試験(第8回)に出題されています。

2分半の動画で解説しました。
posted by ぷしこノート at 18:43| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月24日

錐体外路症状 ブログで授業(学生向き)

統合失調症を薬物で治療する際、錐体外路症状が生じることがあります。どのような症状が生じうるのかを、医師や看護師はもちろんのこと、医学生も看護学生も理解しておく必要があります。

錐体外路症状には、運動が減るパーキンソニズムと、運動が増える症状(アカシジア、ジスキネジア、ジストニア)があります



錐体外路症状で最も多いのがパーキンソン症候群です。



ジストニアとジスキネジアは、概念も用語も似ているため混同しやすいものです。きちんと見分けられるようになりましょう。筋肉が引っ張り続けてしまうのがジストニアで、筋肉が動き続けてしまうのがジスキネジアです。"tonus/tension"は緊張、"kinetic"が運動を意味することを知ると、この二つを混同せずにすむかもしれません。



足がムズムズして座っていられなくなるのが「アカシジア」です。"a-"は「無」を、"káthisis"は「座る」を意味し、座っていられなくなるのがアカシジア。



まとめて4分間で解説しました。
ラベル:統合失調症
posted by ぷしこノート at 20:52| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする