2017年04月04日

統合失調症と多飲水 ブログで授業(プロ向き)

統合失調症の患者さんが過度に飲水して水中毒、すなわち低ナトリウム血症に陥ることがあります。精神科病院に入院している患者の約10%に病的な多飲水が存在し、その結果として約3%に水中毒が生じるといいます(佐藤ら, 2009)。このことは「入院中の中3の体重(中毒3%、多飲10%)」とでも覚えておきましょう。第8回精神科専門医試験でも出題されています。
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多飲水の原因は明確ではなく、複数の要素が考えられます。中には妄想や幻聴に基づく多飲水もありますが、そのようなケースは10%ほどに過ぎず(Millson et al., 1992)決して多くありません。向精神薬の抗コリン作用が多飲水を招いている可能性には注意が必要です。慢性的なドパミンD2遮断が、アンジオテンシンIIによる口渇を増強させる可能性も指摘されています(Verghese et al., 1993)。

また、水中毒に至る多飲水の患者には喫煙者(de Leon et al., 2002)、アルコール使用障害の既往(Poirier et al., 2010)が多いといいます。水中毒の結果として生じる酩酊感を求めて多飲水に及ぶことも少なくなく、多飲水に及ぶ患者の85%が飲むと気分がいいからだと答えたといい(Millson et al., 1992)、「水使用障害/水依存」と考えてもいいかもしれません。そうであるならば、DSM-5では他の物質の使用障害Other Substance Use Disorderのひとつとして「水使用障害」と診断することになります(DSM-5, p.572)。

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慢性的な水中毒よりも急速に生じた水中毒の方が、症状が重症になる傾向があるといいます。水中毒による低ナトリウム血症は脳浮腫をもたらし、酩酊状態が生じ、その後30-60分ほどでけいれん発作が生じることが多いといいます(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.50-1)。水中毒の後に悪性症候群や横紋筋融解、播種性血管内凝固症候群:DICが生じることもあります。多飲水患者の死亡リスクは2.84倍で、死亡時の年齢の中央値は非多飲水患者が68歳だったのに対して多飲水患者は59歳だったといい(Hawken et al., 2009)、多飲水は寿命を10年近く縮めると理解しておくとよさそうです。

一日のうちに体重がベースから10%増えている時点ですぐに対処すべきであり、体内に貯留した水分が上限に達する16-21時はけいれん発作が生じることが多く注意が必要です(精神科における病的多飲水・水中毒のとらえ方と看護, p.36-7)。尿比重、血清ナトリウム濃度、日内体重変動の3つが多飲水の指標として有用であり(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.18-20)、多飲水の可能性がある患者に対しては、これらを組み合わせて観察するといいようです。

血清ナトリウム濃度が120mEq/l以下で命に危険が生じうる諸症状が出現するとされ、そのようなときには120-125mEq/lほどを目標とした電解質補正が必要といいます(水中毒・多飲症患者へのケアの展開, p.22)。電解質補正の際、その補正速度が速すぎれば、橋中心髄鞘崩壊が生じうるので注意が必要です。橋中心髄鞘崩壊では、意識障害、四肢麻痺、構音障害、嚥下障害が生じ、予後不良とされます。そして、水分摂取を制限し、体重のモニタリングをすることになります。

統合失調症を多数かかえる精神病院では、少なからず生じうる多飲水や水中毒。きちんとその可能性について意識し、適切に対処したいものです。精神科専門医試験にも出題されています[専1, 8]。

posted by ぷしこノート at 18:23| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月30日

嗅覚と認知症 ブログで授業(一般からプロまで。学校のテストには出ない)

アルツハイマー型認知症(やレビー小体型認知症)の発症に先行して、嗅覚低下が生じているといいます(Djordjevic et al., 2008; Peters et al,2003; Williams et al., 2009)。嗅覚による認知症のスクリーニングも試みられています(Stamps et al., 2013; 小林ら, 2015)。ご老人に対応するとき、嗅覚の低下が生じていないかを生活の中から観察しておくことは、認知症に早く気づくことにつながるかもしれません。

また、マウスやラットの嗅球を摘出するとコリン作動性神経の異常が生じ、認知機能が低下するといい(Yamamoto et al., 1997; Hozumi et al., 2003)、脳の変性の結果としての嗅覚低下だけでなく、嗅覚低下が認知機能を悪化させる可能性もあり興味深いものです。嗅覚刺激が認知機能を高める可能性が指摘されており(Moss et al., 2003)、嗅覚をトレーニングしなおすことによって認知症を予防できる可能性にも注目されています(木村ら, 2005)。いわゆるアロマセラピーを試みることになりますが、認知症予防を目的とした商品も登場しているようです。その有効性は十分に分かりませんが、少なくとも副作用や侵襲性が少ない点で、試してもいいのかもしれません。


アロマの認知症予防効果について語られた本もあるようです(私自身は未読)。


認知症で嗅覚低下が生じうることは、精神科専門医試験(第8回)に出題されています。

2分半の動画で解説しました。
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2017年03月24日

錐体外路症状 ブログで授業(学生向き)

統合失調症を薬物で治療する際、錐体外路症状が生じることがあります。どのような症状が生じうるのかを、医師や看護師はもちろんのこと、医学生も看護学生も理解しておく必要があります。

錐体外路症状には、運動が減るパーキンソニズムと、運動が増える症状(アカシジア、ジスキネジア、ジストニア)があります



錐体外路症状で最も多いのがパーキンソン症候群です。



ジストニアとジスキネジアは、概念も用語も似ているため混同しやすいものです。きちんと見分けられるようになりましょう。筋肉が引っ張り続けてしまうのがジストニアで、筋肉が動き続けてしまうのがジスキネジアです。"tonus/tension"は緊張、"kinetic"が運動を意味することを知ると、この二つを混同せずにすむかもしれません。



足がムズムズして座っていられなくなるのが「アカシジア」です。"a-"は「無」を、"káthisis"は「座る」を意味し、座っていられなくなるのがアカシジア。



まとめて4分間で解説しました。
タグ:統合失調症
posted by ぷしこノート at 20:52| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月20日

世界の神医学の歴史 ブログで授業(学生向き)

幻覚や妄想などを主体とした精神障害は、古くは悪霊や動物などが憑いたものと考えられ、ときには信仰の対象になることもありました。

ヒポクラテス (Hippocrates, 紀元前4-5世紀)が、すべての病気を血液、粘液、黒胆汁(こくたんじゅう)、黄胆汁(おうたんじゅう)のバランスの乱れと解釈する医学、体液説を提唱するようになり、精神障害も医学の対象とされるようになりました。うつ病を扱う際に「メランコリア」と呼ばれる概念が今でも扱われていますが(DSM-5)、皮膚の黒い色素がメラトニンと呼ばれるように「メラ」は黒を意味し、コレステロールの「コレ」と同じく「コリア」は胆汁を意味し、うつ病は黒胆汁によって生じる病気と考えられていました。てんかんは「神聖病」と考えられていました。
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中世には、主にヨーロッパで魔女狩り Witch-Huntが始まり、数万人が殺害され、その8割が女性だったといいます。その中には精神病者も多数含まれていただろうことは想像にかたくありません。
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十字軍遠征で生じた傷病者に対応する施設としてパリで神の家 オテル・デユー Hotel Dieuが作られました。そして、魔女狩りが終息した後、1660年頃より精神障害者を受け入れ始めたのです……そう、精神病者が再び医学の対象とされるようになったのです。
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精神障害者は収容され自由を奪われていた中、ピネル(Philippe Pinel, 1745-1826)が精神障害者に対する人道的な扱いの実践「鎖からの解放」の運動を起こしました。
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アメリカではビアーズ(Clifford W. Beers,1876-1943)が精神保健福祉について活動を展開していました。彼自身、就職後3年でうつ病に陥り自殺企図に及び精神病院に入院しました。当時の精神病院で粗暴で高圧的な患者の扱いを見て、退院後に手記を書き1908年に『わが魂にあうまで』を出版しました。
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歴史の中から精神医学を見直すと、今の精神医学も少し違って見えてくるかもしれませんね。
posted by ぷしこノート at 16:34| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

電気けいれん療法 ブログで授業(学生から精神科医まで)

統合失調症や気分障害(うつ病や双極性障害)に用いられる電気けいれん療法(ECT)について紹介しましょう。


動画での解説はこちらから。



電気けいれん療法の副作用を理解しておきましょう。




ECTを知らない人からすれば「そんなことして大丈夫?」と戸惑うかもしれません。「一般人は当たり前のようにECTは危険で効果がないと思っているが、精神科医はそれと同じくらい当たり前にのようにECTは安全で有効だと考えている」なんて書かれているように(気分障害ハンドブック)、精神科医からすればこの治療の死亡リスクは非常に低いものであり、精神障害を放置する方がずっと危ないことといえるでしょう。
その死亡リスクは5万回に一回(Kramer, 1999)や7万回に一回(Watts et al., 2011)と報告されています。特にリスクがあれば心配すべきですが、一般的な患者については計算できないほど低いリスクといえるでしょう。




電気けいれん療法が何度も繰り返し行われることがあり、その回数が三桁を越えると「大丈夫なのかな」と不安になるものです。しかし、実際には脳にダメージは無く(Devanand et la., 1994)、認知機能も下がりません(Devanand et al., 1991)。無駄な心配より、きちんと治療を続けることの方が大切です。




電気けいれん療法の際、気分安定薬の炭酸リチウムは中止しておきましょう(el-Malakh, 1988)。




電気けいれん療法が抑うつ状態に有効なのはよく知られたこと。そして、躁状態にも用いられる治療法です(Riis & Videbech, 2015)。ですから、単に気分を「あげる」というよりは「正常化する」というのが正しいかもしれません。




電気けいれん療法は、なぜ効くのでしょうか。

posted by ぷしこノート at 13:21| 精神科ブログ講義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする